対人援助を考える。

対人援助の仕事を通じて考えたことの備忘録です。

やりたいこととやるべきこと。

 多くの人は、やるべきこととやりたいことの間で生きています。やりたいことばかりに偏ると、様々な生活上の支障が生じてきますし、やるべきことばかりに偏ると、つまらない人生になってしまいます。現実原則に従いつつ、快楽原則を満たすのが、健康な在り方です。
 あるケースで、やるべきことに縛られる生き方に無理が来たようで、逆に振れてしまい、やりたいことしかやらないという極端なスタンスに立ってしまい、社会生活が困難になってしまったクライアントがいました。人の意向に沿い、自分を押し殺さざるを得ない生活から離脱し、完全に自分優先になってしまったのです。こういったケースの場合、やりたいことをやり続けるためには、やるべきことをやる必要があることに気付いてもらうしかないと思います。やりたいこと以外一切やらないというスタンスでは、結局やりたいことができなくなります。しかし、言うは簡単ですが、これほど難しい課題もありません。おそらく、その人の生育過程で身に付いた強固な反応だからでしょう。
 人は、育つ中で、まずは欲求が満たされる経験から始まり、欲求を先伸ばしにしたり、断念する経験を程よく積んでいくことで、現実原則に従いつつ、快楽原則も満たすことができる生き方が身に付きます。欲求が満たされないまま、あるいは、欲求を満たすだけで、現実原則を教わることがなければ、バランスを欠いてしまいます。バランスの取れた生き方ができないクライアントの辛さに寄り添いながら、現実に立ち向かっていく力を育んでいくことが、対人援助職に求められるのでしょう。