対人援助を考える。

対人援助の仕事を通じて考えたことの備忘録です。

カール・ロジャーズと来談者中心療法再考。

 今日と明日の出張のお供は、「全訂 ロジャーズ」にしました。来談者中心療法やカール・ロジャーズについての論述集です。数年前に読んだものの再読です。先週末は、友田不二男の小冊子「非指示的療法」を読むなど、カウンセリングの基本に立ち戻りたいという気分があるようです。
 「話を聴くだけで変わるなら苦労はしない。」来談者中心療法に対する懐疑的な声の代表でしょう。私もそう思い、離れた時期がありました。認知行動療法は、来談者中心療法に感じた物足りなさを補ってくれましたが、いきなり技法を適用するようなやり方は成功せず、やはり、まずはクライアントに寄り添い、話を聴くことが土台であることを感じるようになり、来談者中心療法の意義を再確認するようになりました。
 来談者中心療法の意義を考える時、必ず思い出すエピソードがあります。まだ25歳の頃です。この職に就いて3年目でした。私個人に対してというよりも、システムに対する不満を強くぶつけてきた人がいました。それはもう、凄まじい勢いで恫喝してきます。色々言いたいことはありましたが、何を言っても聞く耳は持ってもらえないだろうということだけは分かりました。当時、話を聴くことが大事であることは知っていました。まさに、「知っている」だけで、技術は皆無に等しい状態だったはずです。しかし、やるしかありません。ひたすら話を聴き、時には、本人が述べたことを要約して返すなどしました。必死に聴いているうちに、相手のトーンが下がっていき、最終的には、落ち着きを取り戻してもらうことができました。この時、話を聴くことが持つ力を実感し、来談者中心療法を学ぶようになっていきました。
 もちろん、上記のケースは、話を聴いただけで全ての問題が解決したわけではなく、その後も色々ありましたが、少なくとも関係性を築くことはできました。後に学んだ動機づけ面接の4つのプロセスで言うと、関わる段階はクリアしたのです。動機づけ面接の4つのプロセスという考え方は、来談者中心療法への理解を深めてくれました。動機づけ面接に限らず、来談者中心療法から派生した各種方法を学ぶことは、来談者中心療法自体への理解を深めてくれるようです。
 話を聴くこと、共感は、人の変化をサポートするための十分条件ではないものの、必要条件だろうと思います。換言すると、「話を聴くだけでは、人は変わらない」けど、「話を聴かなければ、人は変わらない」ということではないでしょうか。